コトノハの園で




 ―*―*―*―*―*―


何も言えない――言わない僕は、代わりにプレゼントを用意した。日本の物語を海外用に訳した一冊の絵本。


その物語の結末のように、深町さんは、僕を地面の上に戻した。何処までも行ける自由の旅は終わりだと。


同じだけれど違う、数ヶ月前までと同じ、僕の日常へ。


言葉にすると気障で大げさ。けれど、深町さんとの日々は、それは、それほどの時間だったという意味を込めて選んだ一冊。


「ストップですっ!!」


最後は手渡しで――決意した行動は拒否されてしまった。その勇気は今使うべきではないと言われ、身が竦み……。


「――もしお暇などあれば、デパートでのお買い物ついでに、チョコレートも買いにいらしてください。サービスします。ここから、そう遠くないですし」


四月から、深町さんは、ここからそう遠くないデパートに勤務する。


「深町さんも、卒業までの読書は終了してしまいましたが、またのご利用、お待ちしていますよ」


そうして、僕が贈ったプレゼントを大切に抱きしめてくれた深町さんは、目を潤ませながら帰っていった。





――さようなら――


ずっと響いて鳴り止まない、最後の言葉。










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