大嫌いなアイツの彼女になりました。






 当時小学四年生だったあたしは、望月相馬と双葉ちゃんと遊んでいる時に、2Lのペットボトルの中身をほとんど全て溢したことがあった。


 それはもちろん、故意ではなく事故だ。

 床に置いてあった人形に躓いて、蓋が空いていたペットボトルごと転んだのだ。



「あのジュース、お兄ちゃんが好きすぎて飲み過ぎちゃうから、お母さんが一か月に一回しか買って来なかったんだ。それをお兄ちゃんは、あたしにも家に来た友達にも一切あげず、大切に飲んでたんだよ」


「えっ……嘘。だって、遊んでる時はいつもあのジュースだったじゃん」


「……それは、純香ちゃんが来てるからだよ。まあ、その時もあたしにはくれなかったけど」


「え……なんで?」


 七年後にして初めて知った、あの、甘酸っぱいグレープフルーツジュースの秘密。

 あたしももちろん好きだった。だから、遠慮せず飲んでいた。


 ……何も、知らずに。




「だからー、純香ちゃんだからだよ。純香ちゃんは、お兄ちゃんにとってそれほど特別な存在だったんだよ」


「……でも、」



 でも、確かに、望月相馬は小学五年生の時あたしをいじめていた。

 それは、変わらないはずなのに。

 勘違いじゃないはずなのに。



「けど、あれはきっとお兄ちゃんショックだったと思うなー。大切なジュースをほとんど溢しちゃうんだもんね」


「あっ……本当だ」


 気になるけど、今は思い出話に意識を向けることにした。



「あたしね、やっとお兄ちゃんが純香ちゃんにキレる!って思ったんだ。けど……お兄ちゃん何て言ったか覚えてる?」



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