大嫌いなアイツの彼女になりました。






 双葉ちゃんはほんの少し悲しそうな表情を見せた。



「えっと……なんだったっけ」


「『大丈夫?』だよ。真っ先に、純香ちゃんが怪我していないか確認したの」


「……そう、だったっけ」



 可笑しい。


 その部分だけ、都合良く記憶が無くなっている。

 でも、双葉ちゃんは、きっと嘘をついていない。


 あたしの記憶の無さより、何より可笑しいのは、望月相馬がそんなに優しかったってことだ。


 あたしの中のイメージとは、かけ離れている。

 かけ離れ過ぎだ。


 どうしてだろう。


 どうしてあたしは、望月相馬の優しかった記憶だけ、綺麗に消しているんだろう?

 それが当たり前だと思ってたから?


 それとも……本当は覚えてるのに、忘れている〝フリ〟をしているだけ?



 キーンという音と共に、頭が痛くなった。




「……驚いたよ。嘘でしょ?って。それと同時に、純香ちゃんに嫉妬した。いっつもお兄ちゃんに特別扱いされて。ずるいって思った」


「そんなことないよ、双葉ちゃんの方が……」


 あたしの記憶の中では、望月相馬は双葉ちゃんをとっても大切にしていた。



「絶対違う!……とにかく、純香ちゃんはあたしにとって邪魔な存在だったのっ」


「え、そこまではっきり言う……?」


< 119 / 203 >

この作品をシェア

pagetop