ショータロー☆コンプレックス
オレは思わずそう叫んだ。


普段の運転だっていっぱいいっぱいなのに、そんな事を考えながら車を操る心の余裕なんてある訳がないじゃないか。


「しょうがねーな」


辻谷はチッと舌打ちしながら言葉を吐き出すと、素早くシートベルトを外し、ドアを開けて車外へと出た。


そしてそのまま車の後ろを回って運転席まで来ると、勢い良くドアを開ける。


「降りろ」


「え?」


「俺が運転するから、お前助手席に行け」


言いながら、オレに覆い被さるようにして体を伸ばし、勝手にシートベルトを外しにかかった。


さらにギアをパーキングに入れる。


「え!?ちょ、あの……」


「早くしろよっ。信号が変わっちまうだろが!」


辻谷はオレの腕を取り、強引に運転席から引きずり出すと、代わりに自分がそのポジションに納まった。


ちょうどその時進行方向の信号が青に変わったので、オレは慌てて運転席側の後部座席に飛び込む。


助手席まで移動している時間は無いととっさに判断したのだ。


モタモタしていたら、きっとこの場に置き去りにされるに違いない。


この男なら平気でそういう事をやりそうだ。


数分前に上がったハズの辻谷の株は、今や大暴落である。


ここで放り出されてなるものか。


この車を借りたのはオレなんだから。
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