ショータロー☆コンプレックス
「そしてある日決定的な事が起こった」


そう言いながら、辻谷は交差点に差し掛かる手前でいきなり右に車線変更をした。


といっても前もってきちんと車間距離を計算していたらしく、他の車の走行を妨害したりはしていない。


何事かと思ったら、オレ達のすぐ前を走っていた車は左折をするらしく、かなりスピードを落としていた。


一方、進行方向の信号は青から黄色に変わる所だった。


つまり、あのままあの車の後ろを走っていたら行く手を遮られて、ゴルフの追跡は失敗していたかもしれない。


そうならないように、辻谷は常に周りの状況に気を配りながら運転していたようだ。


しかもオレとガッツリ会話を交わしつつ。


良くそんな余裕があるものだと、心底感心してしまう。


だてに威張りんぼなワケじゃなかったんだな。


これだけのテクニックがあったら、さぞかしオレの運転は危なっかしく思えた事だろう。


信号が赤になる前に無事交差点を渡りきり、辻谷はそのまましばらくゴルフと並んで右車線を走り続けたけど、さりげなく減速し、左に車線変更してゴルフの後ろに回り込んだ。


その一連の流れはとてもナチュラルでスマートだった。


「すごいですね……」


オレは思わず感嘆の声を上げた。


「は?何が?」


「いや、ハンドルさばきが見事だな~と思って。運転歴は長いんですか?」
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