ショータロー☆コンプレックス
「ああ、それは良い手かもしれませんね」


Aさん一人だけの証言では取り合ってもらえなくても、決定的な被害に遭った女性が、しかも複数名いるとなれば、警察も動いてくれるだろう。


「誤解の無いように言っておくけど、Aさんは別に仲間がいる事を期待しているワケじゃない。騙されたのが自分一人だけなら、それに越した事はないと言っている」


前方に注意を向けつつ辻谷の解説は続く。


「それに、被害に遭っていても、家族や周囲の人間にバレるのが嫌だから余計な事はしたくないという考えの人もいるかもしれない。そういう人に対して、被害届を出す事を無理強いするつもりはないらしい」


「そっか…。そういうパターンもあるんですね」


ああやって野放しになっているという事は、とりあえず、今のところあの男を訴えた人物はいないという事だ。


それは、今までは詐欺行為を働いていなかったか、もしくはAさんの時のように際どいタイミングで撤退したからかもしれないけれど、当然、被害女性が泣き寝入りしているという可能性もあるんだよな。


詐欺事件が起きた際、被害者は純粋には同情してもらえず、周りからは騙された側にも落ち度があるように言われたり責められたりしてしまうものだから。


オレ自身、さっき思ってしまった事だけど。
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