ショータロー☆コンプレックス
これ以上傷付きたくないから、取られたお金は人生の勉強料と諦めて、誰にも何も言わずに、自分の胸の内に仕舞っておこう、と考える人も中にはいるかもしれない。


……やっぱオレ、さっきAさんに対して、すごくヒドイ事考えちゃったかも。


被害者であるはずの人に、罪悪感を持たせるような事を言ったりやったりしてはいけないよな。


実際に本人の目の前で口にはしなくても、そう考えてしまった時点でダメだと思う。


改めて、辻谷の先ほどの言動はすごく大人な対応だったんだという事を認識し、同時に、尊敬の念がふつふつと沸き起こって来たのだった。


「Aさんはあくまでも、他にも犠牲者がいて男を糾弾する意志があるのなら、ぜひとも力になりたいという考えなんだ」


しかし当の本人は、自分の株が1部上場を果たした事など露知らず、粛々と話を進めた。


「女性だけど男気があって正義感が強くて、めちゃくちゃ良い人なんだよ。Aさんは」


「そうですね~」


オレはウンウンと頷いた。


自分の為ではなく、どこかで苦しんでいるかもしれない赤の他人の為にそこまでできるなんて。


しつこいけど、探偵を雇うのってすごくお金がかかるだろうに。


「そんな訳でウチの事務所の女性陣はAさんの姿勢にえらく感銘を受けちまってさ。普段以上に気合い入れて調査にあたってたよ」
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