星の音[2015]【短】
胸の奥がじんわりと温かくなったのは、気のせいだろうか。


そんな私を余所に男子生徒は奥に視線を遣り、「教授は?」と首を傾げた。


「あ、所用だとかでさっき出て行かれましたけど、たぶんそろそろ戻って来られると思います」


時計を見ると教授が出て行ってから15分が経とうとしていて、彼が私にわざわざ15分だけ掃除を頼んだ事を考えればその時間に合わせて戻って来るように思えた。


その予想は当たっていて、程なくしてタイミングを計ったように部屋のドアが開いた。


「ただいま」


「「おかえりなさい」」


「おや、君も来ていたんですか。あぁ、ちょうど良かった。たった今、君に貸す約束をしていた本を返して貰ったところなんですよ」


男子生徒と二人で頭を小さく下げれば、教授はいつものように目尻の皺を深くしてニコニコと笑い、机に置いてある本を手に取った。


それは私が返しに来たばかりの物で、教授は目を丸くした私のすぐ隣にいる男子生徒に差し出したのだ。


「彼も僕達と本の趣味が似ていてね、君の次に貸す約束をしていたんだよ」


「すごい偶然だね」


教授から本を受け取った男子生徒は、とても嬉しそうに笑った。


その表情はキラキラと眩しくて、胸の奥がトクンと高鳴ったような気がした。


「そういえば、君はこっちを待っているんだっけ?」


「あ、はい」


古びた表紙の本に視線を落とした男子生徒は、少しだけ考える素振りを見せた後でふわりと微笑んだ。


「じゃあ、これから一緒に図書館に行く?」


「え?」


「もし、君が僕の次に借りる人なら、このまま借りられると思うんだけど」


確かに、運が良ければこの後すぐに借りる事は出来るだろう。


「そうするといいよ。そんなマイナーな本をわざわざ予約してまで読むのは、きっと僕達みたいな読書好きくらいだろうからね」


僅かに戸惑う私の背中を押すように冗談めかして笑った教授は、ドアを開けて男子生徒と私を見送ってくれたーー…。


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