僕と、君と、鉄屑と。

(4)

 夢を、見た。あの人が、帰ってくる夢。寝室のドアを開けて、玄関に行ったら、あの人が立っていて、笑っている。おかえりなさい、って言うと、彼は優しく、私を抱きしめて……あったかい……ねえ、もう覚めないで。このままずっと、夢の中にいさせて。お願い。このまま、永遠に、夢の中で……
「透……」
名前を呼ぶと、彼は私の涙を拭ってくれた。その手はあったかくて、大きくて、ちょっと固くて、頬を覆うその掌は、まるで、本物みたい。もしかしたら、私は本当に、あの人のところにいったのかもしれない。これは夢じゃなくて、本当に……目を開けたら、ここはもう、あの一人きりの部屋じゃないのかもしれない。だって、あんなに寒かったんだもん。きっと、あの人みたいに、私の体は氷になって、彼と同じ氷になって、きっとそうだ。私はもう、死んでるんだ。やっと、あの人のところに……
「会いたかった」
ゆっくり目を開くと、涙でぼやけたその向こうには、彼がいた。やっぱり、私は、本当に、彼のところに来たんだ。
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