僕と、君と、鉄屑と。
ゴースト

(1)

 もし、誰かが、本当の僕達の関係を知れば、野間直輝を、酷い男だと思うだろう。彼は同性の恋人がいながら、ステイタスを保つためだけに、全く愛情のない女性と『契約』し、妻を持った。同性の恋人にも、契約の妻にも、不誠実であり、残酷。普通なら、そう思う。

「村井さん」
駐車場で、車を降りた僕に、あの男が声をかけた。
「しつこいな、君も」
「いるんですよね? 野間社長」
「さあね」
「奥さん、寂しそうだったなあ」
僕はその下品で最低な男を無視して、歩き出した。
「奥さん、なぜ社長が帰ってこないのか、知りたいみたいでしたよ?」
関口は、ガムを噛みながら、振り返った僕の顔を見て、ニヤニヤと笑い、シャッターをきった。閃光が、僕の視力を数秒、奪った。
「ゴーストは、写真には映らないか」
「これ以上おかしな真似をするなら、名誉毀損で訴える」
「愛の力は、偉大だなあ」
関口はそう言い残し、ガムを吐き捨て、奥さんによろしく、と背中を向けた。
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