僕と、君と、鉄屑と。
「もったいないなあ」
「前々から気になっていたのですが、その、いけてる、という言葉遣い。もうご年齢もご年齢ですし、何より、母親になるのですから、そろそろおやめになられては」
「あんたとご飯食べてると、味がしないわ」
「なら、僕のナゲットを食べるのはやめてください」

 もちろん、僕の部屋に直輝が帰って来る回数が減ったことは、心苦しい。だけど、それは僕のシナリオで、直輝は僕のシナリオ通りに行動しているだけで、彼にも、この目の前の妊婦にも、責任はない。懐妊を知った時は、偽りではあるものの、やはり、生殖行為の現実を知らされたようなもので、僕は、この妊婦に耐え難い嫉妬を覚えたけれど、こうやって対面していると、この女はとても素直で、明るく、愛らしく、なぜか憎めない。それに、なにより、僕の愛する直輝の分身を、宿している。彼女のお腹の中には、彼の、赤ん坊がいる。僕の代わりに、彼女は彼の、子供を生もうとしている。全ては僕のシナリオ通りに、進んでいる。
< 42 / 82 >

この作品をシェア

pagetop