僕と、君と、鉄屑と。

(4)

 人は、それを同情というかもかれない。たとえそうでも、何がいけないんだ。苦しみ、悲しみに悶える誰かを救うことは、人の使命ではないのか。
「僕達の関係は、秘密にしておきたい」
「なぜ。別にいいじゃないか。俺達は愛し合ってるんじゃないのか?」
「俗的な人間には、僕達の崇高な愛が理解できないんだよ」
 俺は、祐輔を、男だとか、女だとか、そんなことはどうでもよく、ただ、『村井祐輔』という一人の人間として、彼を愛していた。だから、俺達の愛を知られることに恐怖はなかったし、羞恥もなかった。だけど、祐輔はそうではなかった。彼は世間と距離を置き、俺以外の人間とは、一切の関わりを持たずにいた。彼は相変わらず孤独で、悲しみに溢れた目で、分厚いレンズの奥から、『俗世』を淡々と眺めていた。

「ねえ、村井さんって、どんな学生だったの?」
「そうだなあ。成績は良かったらしいな」
「へえ、そうなんだ。頭、良さそうだもんね。私なんて、毎年単位ギリギリでさ、よく卒業できたって、みんなに言われた」
「でも、CAになれたんだろ? すごいじゃないか」
「CAは、子供の頃からの夢だったの。勉強は大嫌いだったけど、英語だけは、がんばったかな」

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