僕と、君と、鉄屑と。
 夢。俺はある夜、祐輔に、夢を語る。大金持ちになって、世界中の困っている人を、助けたい。それは、麗子のような、明確な『夢』ではなく、言うなれば、小学生が、立派な人になりたい、なんていう、漠然とした、なんの現実性もない、ただの『夢』。
 俺は、成績も普通で、文学部といいながら、熱心に学んだのは哲学と宗教学だけで、三回生になっても、皆のように、就活にも身が入らず、できれば、どこかの山小屋でハイカーガイドか、古書を扱う店で本に埋れて生活できれば、それでいいと思っていた。なんならもう、大学も辞めようと思っていた。それくらい俺は、金とか、生活とか、そんなものに興味のない、人間だった。
「僕が叶えてあげるよ」
祐輔はそう言って、黙々と何かを始めた。その頃はもう、俺達は一緒に暮らしていて、八畳のワンルームで、俺達だけの世界で暮らしていた。毎日、祐輔は何台かのパソコンに向かい、何かをしている。俺にはさっぱりわからない。何をしているのかと聞いても、祐輔は、君はただ、僕を信じてくれればいい、と言うだけだった。
「髪を切りに行こう」
祐輔は俺を、オシャレな美容室へ引っ張って行き、勝手にオーダーして、俺の髪型を、まるでモデルか俳優のように変えてしまった。
「これを着て、写真を撮るよ」
祐輔が買ってきた服は、俺が今まで着たことのない、着ようと思ったこともない、薄いピンクのポロシャツに、白いパンツ。首にはゴテゴテしたネックレスをかけ、手首には高そうな時計。
「時計はレンタルだからね。傷つけないでよ」
俺を写真部の部室へ連れて行き、俺は見合い写真でも撮られているのか、という勢いで、無理な笑顔の写真を何枚か撮られ、違う衣装で、本を読んでいるところだとか、山に登るロケまでして、何枚も写真を撮った。
「しばらくは、これでいいな」
パソコンの画面の中には、ピンクのポロシャツを着た、どうみてもナンパな男がいる。
「これ、何?」
「君のFacebookとインスタグラム」
プロフィールページには、『オフィスノマ 代表』と書いてある。
「代表?」
「そう、君は社長なんだよ」
「何の?」
「人材派遣会社の」
祐輔は、知らない間に、俺を社長にして、起業していた。
「ちょっと……俺には、そんなことできないよ」
「君は何もしなくていいんだ。全て僕がやる。ただ君は、僕のシナリオ通りに、振舞ってくれれば、それでいい」

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