僕と、君と、鉄屑と。
「森江くん」
「はい、社長」
僕は、眼鏡を外した。
「君は、僕の顔を、どう思うかな」
森江くんは、じっと僕の顔を見て、真剣に、返辞をした。
「とても、素敵で、男性的だと思います」
「イケメン、かい?」
「ええ、とても。野間社長よりも、イケメン、です」
「はっきり言おう。僕は、ゲイなんだ」
「然様ですか」
「それでも君は、僕を愛しているというのかい?」
「社長が男性しか愛せないのであれば、私を男性だと思ってください」
真面目な顔でそう言った森江くんの言葉に、僕は思わず、吹き出してしまった。
「君はどう見ても、女じゃないか。男に思えるわけがない。君はとても……」
「……とても?」
ふむ。僕は……いったいどうしてしまったのか。どうやら、あの麗子という女に出会ってから、どうもペースが乱されている。まさか僕が、女に……こんなことを、思うなんて。僕としたことが。
「とても、可愛らしい」
 森江くんは、その言葉に、俯いて、泣き出した。
「どうしたんだい」
「嬉しくて……」
ふむ。こういう場合は……たぶん、こうすればいいのだろう。
 抱きしめた森江くんの体は、とても柔らくて、とても細くて、少し力を入れたら、壊れてしまいそうで、僕は、とにかく、森江くんの涙が止まるまで、そして、僕の涙が止まるまで、そのまま、彼女を抱きしめていた。

「僕のそばにいることを、許そう」
「ありがとうございます」

 直輝、どうやら僕にも、麗子のように、僕を全て許してくれる、女がいるようだ。君もよく知っている、あの、出来損ないの、森江くんだ。覚えているかい? どうも僕達は、出来損ないの女に好かれるようだね。そして、出来損ないの、純粋で、真直ぐな女が……好きなようだ。

「落ち着いたら、祐輝を、見に行こうか」
「はい。そう、お伝えしておきます」
「くれぐれも、ブッキングしないようにね」
「最近はあまり、ミスしていないんですよ」
「そうか。君も、やっと、一人前に、なったんだね」
「社長の、ご指導のおかげです」
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