僕と、君と、鉄屑と。
 直輝。わからないけれどね。僕も、女というものを、愛してみようと思う。僕はずっと、男にしか、愛を感じなかった。もちろん、今でも、だ。
 告白すれば、僕は今でも、君を愛している。昔と変わらず、君を、愛している。君と、抱き合い、キスをし、セックスをしたいと、今でも思っている。でも、君はもう、僕を愛してはいない。愛してはいけない。君は、麗子という女と、祐輝という子供を、ただ、愛さなければならない。そして君は、彼らを、愛している。それでいい。君は、それでよかった。
 俗世だなんだと言っているけれどね。僕は結局、この俗世から離れられない。捨てられない。君のように、そんな、空気と木しかないような場所で、僕は生きられない。所詮僕は、こんなに狭いビルの一室で、閉め切られた空間で、小さな画面に向かって、時間に縛られて生きる、そうだね、「俗畜」とでも、言ってみようか。そんな俗畜を、彼女は愛していると言う。男しか愛せない男を、愛していると言う。はっきり言って、バカだ。こんな愚かな僕を愛しているなんて、バカの骨頂だ。
 こういうことなんだね。君が、僕よりも、麗子を選んだ理由は。女だから、じゃなくて、きっと、こういうことなんだね。
 だけど、もう少し、僕には時間が必要だ。頭では理解していてもね、どうも、心は比例しないようなんだ。この、涙という液体が、君のことを想っても、排出されなくなったら、そうだね、君と、君の妻と、君の子供に、会いに行くよ。それまで、直輝、待っていてよ。

「ああ、社長。これが、届いていました」
森江くんの手には、少し汚れた封筒があって、それは、関口和真からの、エアメールだった。中には数枚の写真が入っていて、一枚の写真の裏に、汚い字で、こう書いてある。
『この子たちは、戦火から逃れた、傷付いた子供たちです』
ここにも、俗畜から逃れた人間がいる。写真の中の関口は、子供達に囲まれ、迷彩服で、ニヤニヤ、ではなく、精悍に、笑っている。
「このキャンプに、いくらかしておいてくれ」
「今月で三件目です」
「下手な広告を流すより、よほど効果的だ」
森江くんは、はい、と微笑んで、会計室へ行ってきます、と部屋を出て行った。

 直輝、一応ね、君の夢は、僕が叶えたつもりだよ。これで、僕を、少しは許してくれるかい。
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