僕と、君と、鉄屑と。
 僕は、とりあえず麗子についていくことにした。
「ねえ、あの人の、タイプって?」
「タイプ、ですか?」
「そう、どんな感じの女が好きなわけ?」
どんな……どんな女が……?
「あの人に似合う女にならなきゃいけないんでしょ?」
「はあ……」
はっきり言って、わからない。社長は、どんな女が好きなんだろう。
「真面目そうな方が……いいのではないかと……」
「なるほどね」
麗子はそう言って、店員に、真面目そうに見える服を五着ほど用意しろ、と言った。
ふむ。女性はそうやって服を買うのか。実は、僕は女性と交際をしたことがない。なので、こうやって女性と買い物をするのも初めてだし、
「ね、どう? 似合う?」
こんな風に、フィッティングルームから笑顔で聞かれたこともない。
「よく、お似合いです」
結局その店で、五着ほどの服を購入し、他の店で靴や鞄を購入した。その度に、麗子は鏡の前に立ち、僕に、似合う? と聞き、その度に、僕は、よくお似合いです、と答えた。
「あー、こんなに買い物したの、はじめて!」
紺色のスーツと、黒いハイヒールに着替えた麗子は、後部座席でタバコを吸っている。
「もう、よろしいですか?」
「うん、今日は、もういい」
今日は……まあ、いいか。
「ねえ、荷物、取りに行きたいんだけど」
「どちらへ?」
「家に決まってんじゃん」
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