僕と、君と、鉄屑と。
エピローグ
 ゲートから出てくる人波の中に、彼を見つけた。相変わらず、スーツ姿の彼は痩せていて、でも、なんだか、ちょっと、人間ぽく、なった感じ。
「村井さーん!」
彼は私の声に、キョロキョロと辺りを見回し、隣にいた、紗織ちゃんが、私を見つけて、手を振ってくれた。
「麗子さん、ご無沙汰しておりました」
「うん、久しぶりだね! 来てくれてありがとう。村井さんも、元気だった?」
「この通りです」
もう、相変わらず、無愛想なのね。
「わあ、祐輝ちゃん? こんにちは。大きくなりましたね!」
「今ね、一歳二ヶ月。すっかり歩き出しちゃって、追いかけるのに必死よ」
村井さんは、ちらりと祐輝を見て、そろそろ靴が必要かと思って、と、小さな紙袋を出した。
「かわいい! ありがとう! ほら、祐輝、かわいいお靴、もらったよ」
「森江くんが選んだんだ。僕は、もう少し、センスがいい」

「野間さんは?」
「まだ学校。遅くまで子供達と話してるのよ。生徒も大事だろうけど、もうちょっと妻と子供も大事にしてもらわないと」
なんて、ちょっと愚痴を言っちゃった私に、紗織ちゃんは、ごちそうさまです、とクスッと笑った。
 私の隣には、沙織ちゃんが乗っていて、後部座席には、村井さんと、チャイルドシートに座った祐輝が並んでいる。なんだか、おもしろい光景。村井さんは、時々ちらちらと祐輝を見ては、ちょっと、微笑んだりして、そのたび、祐輝がキャッキャと嬉しそうに笑う。
「おとなしいですねえ」
「珍しいのよ。いつもだと、チャイルドシートは嫌がって泣くんだけど。きっと、村井さんが横にいるからね」
うん、本当に、珍しい。結構人見知りするんだけど、なぜだか、村井さんのことは、お気に召したみたいね。

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