今宵、月が愛でる物語
ソファに座り、深く溜息を吐く。

風華は勝手に帰るだろう。

それでいい。


……バタバタバタ、ガチャッ

「………………」

「風華?なんで戻って…っ!」

突然唇に触れる温もり。

押し付けられるように、覆いかぶさるように、ソファに座る俺に降ってくる。

「ちょ、…っ!ふう…かっ!」

力いっぱい引き剥がして逃れる。

「はぁ…っ。お前なにしてっ…!」

「抱いてよ!

最後に一度だけ、抱いてよっ!」

腕を掴んで抑える俺を振りほどこうとしながらそう叫ぶ風華。

「…そんなことできるわけないだろ!?」

「できるよ!してよ!

祐を選べないならせめて最後にもう一度、もう一度………っ!

祐に愛されてた証拠を見せて…っ!」



……プチンと、何かが切れた。



それとともに、胸に愛しい身体を抱きしめる。

思いのほか落ち着いている心は、けじめをつけると覚悟を決めたせいか。



「………手加減できないよ?」



「……うん。いいよ。」



「……壊すかもしれない。」



「……うん。いいよ。」



「……甘やかすかもしれない。」



「………うん。いいよ。」



髪を撫でる。

腰を引き寄せる。

頬に手を添え、上を向かせる。

涙で潤む瞳を見たら……

「…っ!」



あとはもう夢中だった。





ソファで…ベッドで…何度も彼女を愛した。




何度も零れる涙をキスで掬い上げ、




深く深く…刻み付けるように突き上げて、




掠れるほどに切なく啼かせて、




耳が壊れるほど愛を囁いた。




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