今宵、月が愛でる物語
………!

「なっ、なんでそれを。というかっ!

なんでこんなこと。」

心臓は暴れるように早い。きっと、顔は真っ赤だ。

「…橘は鈍感すぎる。」

「…へ?鈍感?誰が?」

「だから、橘、お前。

商品部のヤツらだってみんな気づいてる。俺が………橘を好きだって。」

………みんな?

商品部の人数は15人いない。そのみんな?

それに……好きって………。

「お前今日三沢さんにお見合いしなきゃってグチったんだろ?」

三沢さんは、黒崎さんのさらに3つ上の先輩だ。面倒見のいい人で、先日他の部署の男性社員と結婚したばかりだ。

「それ聞いて、三沢さんが俺に教えてくれたんだ。

………そんなの、俺許さない。」

「黒崎さん……。」

身動きが取れない。彼の大きな掌は、触れた部分から私に熱を伝える。

「ずっとお前を見てたよ。一生懸命仕事してる橘も、俺にからかわれてちょっと怒ったり困ったりしてる橘も、笑うとすっごい可愛いところも、全部好き。

……他のやつに取られないようにずっと見張ってきたのに、ここに来てお見合いで持ってかれるなんて我慢できない。」

「持ってかれるって………。

ちょっと待ってください。お見合い写真送るって母から電話来ましたけど、するなんて言ってませんよ?

三沢さんにだって、そういう電話がきて嫌だってグチっただけでするとは一言も…」

「………………しないの?」

「しません。母には送ってきても見ないって言ってあります。」

「~~~~~! 三沢さん、俺を引っ掛けたな。だからあんなに帰りにニヤけてたのか。」

「……引っかかったんですか。仕方ないですね、もう……っと。」

不意に、熱が離れる。

「橘。」

「…………っ!」

真剣な表情で見つめられ、心まで震える。毎日見てきたその瞳から目がそらせない。

「…なんでもいいや。もう、我慢しない。

お前が好きだよ。ずっと…ずっと好きだった。

ずっと、欲しかった。

お前の気持ち、聞かせてくれよ。」



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