今宵、月が愛でる物語
言葉が、深く心に刺さって染みていく。


そんな風に言ってもらえるなんて。

「あ、…私、も…………っ。」

涙が零れる。

伝えたい気持ちが言葉にならない。


でも……


ちゃんと、伝えなきゃ。

「私も、あなたが…ずっと好きでした。

黒崎さん……。好き………。」

想いが伝わるよう、恥ずかしさを精一杯堪えて言葉にする。

きっと、やっぱり、顔は真っ赤だ。

彼は…………

くすりと笑い、また私を抱きしめる。

「……知ってる。」

「………え?」

知ってるって、どういうことなのか。

「お前の俺に対する態度、明らかに他の男にするのと違うって気づいてた。

きっとそうだろうなって思ってたけど…いつだったか、仕事に余裕できるまで彼氏はいらないって話してたろ?だから、待ってた。」

「……………」

そういえば新人の頃そんな話、したかもしれない。半人前にも満たないのにプライベートだけ一人前なんて嫌だったから。

「…そうでした。ひよっこのくせに恋愛なんて…って。

でもそのうち、黒崎さんに惹かれて…一緒に仕事するのに見合う努力をしなきゃって思うようになって…。

結局恋愛が仕事の原動力なんて、笑っちゃいますね。」

「そんなことないよ。俺だって…、いつでも橘を支えてやれるようにって…、かっこいいって思ってもらいたいって仕事してた。」

「………黒崎さんは最初からかっこよかったです。同期の女の子たちの間でも商品部にかっこいい人がいるって評判でしたから。」

「…知ってる。」

「………自信家ですね。そんなにたくさん女の子たちのお相手してきたんですか?」

「なんだよそれ。もうヤキモチ?」

「そっ!そういうわけじゃ……っ!」


突然降ってきた、淡いキス。

啄むように私の唇を捉え、攫っていった。



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