今宵、月が愛でる物語
「なぁに?…菫。」

彼女の両手に、菫が同じようにプレゼントしてくれたネイビーの手袋をはめた僕の両手をぴったりと吸い付くように絡ませる。

「…………これじゃあダメじゃん。」

とたんに切なげな表情を放り投げ、つまらなそうにそう呟いた。


……わかってる。


当たり前だろ。


菫の魂胆はミエミエだよ。


「はは。だって隙をついてこの冷たい手、僕のほっぺたにくっつけるつもりだったろ?」

「………つまんないー。」


ぷぅっと頬を膨らませて幼子のように抗議するこの子は本当に………もぅ。


「それよりもう10時だよ。

いつまでここにいるつもり?

身体冷えちゃう前に帰ろ。」

そうだ。

ファミレスのバイト帰りの菫を迎えに来たのが9時だった。

その帰り道、いつも通る公園に立ち寄って彼女が降り積もった雪で遊びはじめてからもう結構な時間が経ったと思う。



< 93 / 136 >

この作品をシェア

pagetop