この恋を叶えてはいけない
「さて、と……」
「どこ行くん?」
「不動産屋からもらった資料に、目を通そうと思って……」
思えば、資料をたくさんもらったけど、仕事に追われてなかなかじっくり見れていなかった。
そろそろ、ここを出て行く準備をしないと……。
そう思って立ち上がると……
「きゃっ……」
その腕をグイと引っ張られた。
「戸村さん……」
「ええやん。家なんか見んでも……」
「でも……」
「ここにおればええ」
「……」
時々見せる、男を感じる真っ直ぐとした瞳。
その瞳に見つめられると、何も言えなくなってしまう。
鼓動は確かにドキドキと高鳴っていて……
駿という存在がなければ、とっくにこの人を好きになっていたと思う。
けど……
「唯……」
途端に近づいてくる唇。
「あ………あたし、お風呂入ってきますっ!」
あたしは慌てて腕からするりと抜けると、お風呂場へと逃げ込んだ。