*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「毎日練習大変だなぁ……って思って」


なぜか焦ってしまって、今考えていたこととちょっとずれた内容の話をしてしまった。


「サユリちゃんとデートもできへんのちゃう?」


サユリちゃんっていうのは、S女に通う、ケンちゃんの彼女。


「あー。してるで。夕方からとかやけどな」


「そっか。相変わらず、ラブラブ?」


ケンちゃんは、お茶の入ったコップに視線を落として答えた。


「うん。ラブラブやで」


「いいなぁ……」


「え? 何が?」


「彼女がいて良いなぁって思ってん。わたしなんて彼氏いない歴……えーと、あ! 明日で17年だ!」


「え? 明日誕生日なん?」


「そう。8月31日。夏休み最後のめっちゃ憂鬱な日が誕生日やねん」


「はは。まぁ、でも、ちぃちゃんがその気になったら、彼氏ぐらいすぐに出来るって」


「え! 無理無理! わたしなんて、絶対無理やって」


あ……。

しまった。

また使ってしまった。

『わたしなんて』って。


ケンちゃんは、スッと顔を上げてわたしの方を見てこう言った。


「ちぃちゃんは気付いてないだけで、ちぃちゃんのこと、『いいなぁ』って思ってるやつはいると思うで」

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