最後の恋にしたいから
すると、そんな私に彩乃は呆れた顔でため息をついた。

「バカね奈々子も。どうして、そんなヒドイことをされて、寿人くんの気持ちなんて考えるのよ。たとえ、奈々子との付き合いが彼にとって我慢だったとしても、浮気をしていいい理由にはならないよ? 普通、ちゃんと話し合って別れるべきでしょ?」

「あ、彩乃も別れたことには反対しないんだ?」

意地悪く言ってみると、彩乃は大きく頷いた。

「だって、そんな男とは別れて正解だと思うもん」

そう答えられ、思わず笑いがこぼれる。

「まだね、心の整理はついていないけど、ほんのちょっとだけスッキリしたことがあるの」

「なに、なに?」

興味深そうに彩乃は、私の側へイスを寄せた。

「寿人はもう必要ないって言ってやった。今までなら、彼の顔色をうかがって、そんなこと言わなかったけど」

それだけあの瞬間は、寿人が見た『初めて』の私だったと思う。

「へぇ~。それ聞いて、こっちもスッキリした。だったら、気持ちの整理がついたら、また新しい恋をしようよ。例えば、名越課長みたいな人とか?」

「えっ!?」

冗談で言ったのは分かるけど、今の私にはあまりシャレにならず、思い切り動揺してしまった。

「何? もしかして、奈々子もタイプだった? あんまり話に乗ってきたことがないから、タイプじゃないのかなって思ってたけど」

動揺する私を不審そうに見る彼女に、苦笑いを向ける。

「違う、違う。突然、名越課長の名前が出てきたから、びっくりしただけよ。それより、うちの課長じゃダメなの?」

と、話題をそらそうと三課の課長を引き合いに出すと、ますます不審がられてしまった。

「四十代の既婚者がいいわけ?」

「あ……」

そうだった。

うちの課長は既婚者。

苦し紛れに言った言葉で、彩乃からますます怪しまれてしまった。

「案外、寿人くんとの失恋を乗り越えるの、早いかもねぇ」
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