最後の恋にしたいから
「ええ⁉︎」

声を上げる私とは反対に、課長はいたって冷静だ。

「もちろん、分かってるよ。オレたちに恋愛感情がないことは。だけど、失恋に効く薬は新しい恋っていうだろ?」

「え? そうなんですか?」

そんな自信満々に言われても、聞いたことがない。

もはや涙目の私に、課長は首をかしげた。

「あれ? そう思ってるのは、オレだけか? まあ、いいや」

いや、良くないと思うんだけど……。

そう思うのに、完全にペースに乗せられ、反論するタイミングが掴めない。

「一つ約束する。古川に、絶対に手を出さないから」

「は、はあ……」

それは信用出来る。

そんな人には到底見えないから。

間違っても、体目的とは思えない。

じゃあ、本当の目的は何だろう。

「だから、疑似恋愛だけど、今日からオレたちは恋人同士だ」

「あ、あの……。私、まだ引き受けるとは……」

言ってないんですけど……。

だけど、課長はまるでお構いなしだ。

腕時計に目をやると、「そろそろ戻らないといけないな」と呟いている。

「あの、課長?」

本気なの?

まだ半信半疑の私に、課長は笑顔を浮かべて言ったのだった。

「というわけで、よろしく。奈々子」
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