最後の恋にしたいから
海開き前とはいえ、天気がいいからか、ちらほらと訪れている人がいる。

波打ち際で、海の水を触りはしゃぐ子供や、砂浜を歩くカップルが見えた。

「海が眩しいくらいだな」

目を細める課長に、私は笑顔を向ける。

「本当ですね。課長、せっかくだから砂浜を歩きませんか? 」

去年の夏は、もう少し先で寿人と泳いだ気がする。

一年前の自分たちが見えるようで、私はわざと顔を課長に向けた。

だって、思い出したくないから。

だけど、気を緩めると寿人が浮かんできて、意識を課長に集中させた。

「よし! そうだな、歩こう。それから、一つお願いがあるんだけどさ……」

「はい。何でしょうか?」

お願いってなんだろう……。

少し構える私に、課長は照れ臭そうに少し口元を緩めて言ったのだった。

「会社の外では、『課長』は止めにしないか? それから、敬語も」

「えっ⁉︎ じゃあ、なんて呼んだら……いいですか?」

何を言われるのかと思ったら、名前で呼んで欲しいだなんて……。

それもタメ口で?

想像したら、途端に恥ずかしくなってきた。
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