最後の恋にしたいから
「お帰り、奈々子」

あらかじめ渡されていた合鍵で部屋へ入ると、課長が笑顔で出迎えてくれた。

「祐真さん、帰ってたの?」

今日は一日中外回りで、直帰予定なのは知っていたけど、先に帰ってきているとは思わず、嬉しさも倍増する。

「ああ。予定より、少し早めに終わったんだよ。今日は、直帰にして正解だったな」

そう言った彼は、靴を脱いだ私を早々に抱きしめた。

浴衣姿の課長も素敵だけど、見慣れているスーツ姿も相変わらずカッコイイ。

私も、抱きしめ返すように背中に手を回してみた。

想いを伝え合えたら、こんなにもスッキリするのかと思うくらい、今は清々しい気持ちでいっぱいだ。

そう思ったら、自然と気持ちが言葉に出てくる。

「祐真さん、会いたかった。今日は一日中、外回りだったものね」

胸に顔を埋めて、彼の温もりを実感した。
< 91 / 112 >

この作品をシェア

pagetop