オレンジロード~商店街恋愛録~
「だって、名前ないと可哀想じゃん」

「情が移るだけだ。どうせすぐに飼い主は見つかるんだし」

「飼い主が見つかるまでだとしても、そんな、いつまでも捨て猫みたいな扱いをしたくない」

「お前なぁ」


呆れ返るハル。

しかし、結は、そこだけは引けなかった。



「あたし、前の会社にいた時、最後まで上司に名前覚えてもらえなかったの。『ちょっと
』とか、『そこのきみ』とかばっかりだった」

「………」

「子猫だって一緒だよ。名前を呼んであげるのは愛だよ」


少しの間を置き、ハルは「わかったよ」と諦めたように言った。



「チコな。はいはい。じゃあ、今度からはそれで」


ハルはそのままさっさと行こうとするので、結はまた慌ててその後を追う羽目に。



それから、里親募集のチラシをコピーし、商店街に戻った。

ふたりで、一軒一軒のお店に事情を話して、チラシを貼ってもらえるようにお願いする。


特にハルは商店街では顔が広いらしく、みんながみんな、「遠藤くんのためなら」と、好意的に協力を申し出てくれて、本当に優しい人の多い商店街だと思った。



「ハル、何やってんの?」


チラシを持って歩いていたら、ハルに声を掛けてくる男がひとり。

『長谷川酒店』の濃紺の前掛けをした、端正な顔のその人。



「おー、レイジか。ちょうどいいとこで会った。今、子猫の里親になってくれる人探しててさ。これ。ついでにお前の店にも貼ってもらえるように頼んどいてくんない?」

「それはいいけど」


チラシを受け取ったレイジはそれに目を落とす。



「ちっちゃいね。可愛い」

「別に、レイジが飼ってくれてもいいんだけど」

「うーん。そうしてあげたい気持ちはあるけど、うち、アパートだし。あと、カノジョが猫アレルギーでさ」

「そっか」

「でも、俺もみんなに声掛けてみるよ」

「おー。頼むな」
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