オレンジロード~商店街恋愛録~
タクシーに乗って、動物病院に向かう間も、気が気じゃなかった。
この子が死んでしまったらどうしようというのは1週間前と同じだが、今は、可愛がっていた分があるから、愛情の度合いがまるで違う。
結は、祈るような気持ちだった。
幸いにも、近くに夜間の動物病院を発見できた。
動物病院に飛び込むと、すぐに診察してもらえることになり、少し安堵した。
「先生! チコは大丈夫なんですか?!」
触診をし、レントゲンを撮り、戻ってきて台の上にチコを乗せた先生に、結は詰め寄るように聞いた。
先生は困ったような顔をしながら、
「結論から申し上げますと、嘔吐したのは猫の生理現象によるものでしょう」
「はい?」
「レントゲンを撮ってもお腹の中に異物は見つかりませんでしたし、歯ぐきも健康そのものの色をしている。病気などの可能性もありません」
「でも、あんなに苦しそうだったのに……」
「そりゃあ、まぁ、動物だって人間と同じように、吐く時は苦しいですし」
横からハルが、努めて冷静に、「生理現象っていうのは?」と、質問する。
先生は「あぁ」と思い出したように言い、
「猫は体を綺麗にするために舌で舐めるでしょう? その時に、舌についた体毛を飲み込んでしまうんですよ。で、それが胃に溜まる」
「………」
「胃に溜まり、毛玉のようになったものを、猫は定期的に吐き出すんです。今回もそれです。排泄と似たようなものなので、何の心配もいりません」
ハルは「そうだったんですか」と言った。
しかし、気が抜けた結は、その場に膝から崩れた。
「よかった。すごく心配したの。チコに何かあったらどうしようって」
涙が溢れる。
「おい、立てよ。恥ずかしいやつだな。何も、泣くことないだろ」
「だって」
ぐずぐずと泣いていると、ハルに腕を引かれて無理やり立たされた。
それでもまだ泣きじゃくっていると、今度は先生に笑われてしまった。