オレンジロード~商店街恋愛録~
ハルの家に戻ると、チコは先ほどの姿が嘘のように、もりもりと餌を食べ、食後にはおもちゃと格闘していた。
やっぱり先生の言う通り、病気なのどではなく、ただの生理現象だったということだ。
「とにかく、これでひと安心だな」
「うん」
「明日、雪菜ちゃんから紹介してもらったおばあちゃんに電話して、こいつの受け渡しをいつにするか話さないと」
満足げにうなづくハルを見る。
「ハルはチコがいなくなっても寂しくならないの?」
「は? 最初からそういう約束だったろ? それに、飼いたいやつが飼うのが、誰にとっても一番いいに決まってる」
「それはそうかもしれないけど」
「大体、お前だってお役御免になれば、万々歳だろ? ずっと世話してたら餌代だって馬鹿にならないし、これで俺の店の手伝いだってしなくて済む。また職探し再開できんじゃん」
のん気に言うハル。
結は顔をうつむかせて唇を噛み締めた。
「あたしもチコも、ハルにとっては迷惑な存在だったってことよね?」
先ほどとは別の、悔し涙が溢れてきた。
それでも、今度は泣き顔を見られたくなくて、「帰る」と言い、結は立ち上がった。
しかし、玄関に向かう前に、すぐにハルに腕を掴まれた。
「おい、待てって」
顔が向けられない。
「別にそこまでは言ってないだろ」
「でも、あたしもチコも、いなくなった方がいいんでしょ?」
「だから、俺そこまで言ってないだろって。俺はお前の生活を第一に考えて」
「あたしにとってはチコとハルがいる生活が当たり前になってたのに!」
わめき散らす結。
駄々っ子みたいだとは、わかっている。
それでも感情がついていかなかったのだ。