ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
自分の思いつきに慌てる。


誰かのことを『好き』だと思ったのは、生まれて初めてだった。



好きになる必要なんてないと思っていた。


好きになったら負けだと思っていた。



だから、誰のことも好きになろうとはしなかった。



それなのに、こんなふうに湧き上がってくるものだったなんて。



なぜだか、泣きそうだった。



先生は、何を思っているのか、唇を歪めた私をじっと見つめている。


そして、「ごめんね、智恵」と囁いた。




「………え?」




初めて『智恵』と本名で呼ばれて、しかもなぜか謝られて、私は戸惑う。



見ると、先生は困ったように眉を下げていた。




「君に好きになってもらえるまで、君には触れないって言ったのに………。

君のこと抱きしめたくて仕方がなくて」




それで、ゆうべのことを言っているのだと分かった。




「………別に、謝ることじゃ………。

あの、洗面所お借りしてもいいですか」




小さく呟いて、私はやけに早くなった心臓の音を隠すように、ベッドから降りた。


先生が後を追ってくる。



洗面台の蛇口をひねると、透明な水の飛沫がきらきらと輝いた。



顔を洗って身体を起こすと、先生がタオルを渡してくれた。




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