ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「ありがとうございます」




水滴を拭って顔を上げると、思いのほか真近に先生の顔があって、どきりとする。




「ノーメイクの顔、初めて見た」




嬉しそうに言って、先生は笑う。




「なんか、化粧とると幼く見えるな。

かわいいよ、すごく」



「………からかわないでください」




私は先生にタオルを押しつけた。




「からかってないよ。

化粧してるときもすごくきれいだけど、今が一番きれいでかわいい」




微笑んだままの先生は、歯の浮くような台詞を屈託なくこぼした。




「それはどうも」




気恥ずかしくて、何気なく鏡に目を向けると、化粧を落とした心許ない自分の顔が見つめ返してくる。



メイクをしていない顔を見るのは、あんまり好きじゃない。


ずっとつけていな仮面を剥いでしまったような、落ち着かない気分になる。



隠せない、という焦りを感じた。




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