ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
先生はふっと視線を戻し、私を見つめた。



穏やかで優しい、包み込むような微笑み。


この顔を見ると、私は、「ああ、やっぱりこの人が好きなんだ」と思う。




「だから、プレゼント」




先生がバッグの中から、何かを取り出した。


そして、私の膝の上にのせる。



ずっしりと重い、紙の束だった。


めくってみると、原稿用紙に、書き殴られたような、でも繊細な手書きの文字がぎっしりと詰まっていた。




「これ………もしかして」



「うん、小説だよ」




表紙には、『泡沫の光』と書かれていた。


先生が今まで書いた作品のタイトルとは違う。


ということはーーー新作だ。




「君のことを考えてたら、自然と言葉が溢れてきて………気がついたら書いてた」




先生は少しくすぐったそうに言った。




『言葉は絞り出すものじゃなくて、溢れるもの』



作家と編集者として再会したときに、先生が言っていた言葉を思い出した。




「『幻月の庭』は、自分のために書いたんだ。

自分の気持ちを吐き出すために。


でも、それは、智恵のために書いた。

というより、智恵が俺に書かせた小説」





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