ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「………読んでもいいですか」



「もちろん」




私は興奮を抑えきれずに、さっそくページをめくる。


指先がかすかに震えているのに気がついて、ちょっと笑ってしまった。



そうだ。


私は朝比奈光太という作家の新作を待ち望んでいた。



仕事だから、ではなくて。


この型破りな作家の才能に魅せられた、一人のファンとして。



会社に電話を入れて、遅刻か休みになることを伝えた。


電話を受けた編集長は、何か察してくれたのか、何も言わずに承諾してくれた。




胸の高鳴りを感じながら、目で文字を追っていく。



主人公は、一人の男。


男はある満月の夜、闇市を訪れた。


『あるもの』を探しに。




読んでいくうちに、あたりの物音が消えた。


原稿用紙を埋め尽くす文字しか見えなくなった。



私は夢中になってページを繰っていく。




男は出店を一軒一軒まわり、『あれはないか』、『あれを売ってほしいのだ』と訊ねるが、あれとは何ですかと訊ね返されても、ただ『あれが欲しい』と繰り返すばかり。


店主たちはこの奇妙な怪しい客に辟易し、すぐに追い払ってしまう。




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