ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
足を踏み入れるのも気が引けるほど仰々しいエントランスに入り、大理石の台の上にあるボタンで、教えられた部屋番号を押した。



呼び出しボタンを押すと、ピッと電子音がして、マイクから




『はい、どちら様?』




という女の声が聞こえた。



ボタンの上にあるカメラが、私のほうをじっと見つめていると気がする。



私はカメラに向かってにっこりと微笑み、




「突然申し訳ございません。

わたくし、真栄社の香月と申します。

あの、こちらに朝比奈先生はいらっしゃいますか?」




と早口に言った。



すると、『ああ、編集者さんね』という声と共に、マンションの入り口の自動ドアが開いた。




『どうぞ、お入りください。

入ってすぐ右側にある、高層階用のエレベーターを使ってくださいね』




声が軽やかに告げて、通信は途絶えた。



私はバッグを抱えなおし、自動ドアをくぐり抜けてエレベーターに乗った。



25階に着き、目的の部屋番号を探す。



ドアの前に立ち、チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。



出てきたのは、30代半ばほどに見える、そこそこきれいな女。



まぁ、もちろん私には遠く及ばないけど。




< 55 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop