天翔ける君
「死にたかったのか」
千鬼は抑揚のない声音で、けれど堂々と質問を投げ放つ。
質問というよりも、念押しに近い。
恵都はカッとなった。
無性に腹が立って悔しかった。
死ぬのは難しくて、いとも簡単に助かってしまう。
「千鬼さんが!千鬼さんが助けたりしなければ、ちゃんと死ねたのに!」
切ったはずの手首に目を落とすと、きれいに布が巻きつけてあった。
転んでできた怪我にもきちんと手当がされている。
「千鬼さんのせいで死ねなかった!」
恵都は怒鳴り散らした。
反応のない千鬼に目をやると、思いのほか近くに顔があって、恵都は反射的にのけ反った。
千鬼は美しい男だった。
部屋に一つだけある障子から入る月明かりに照らされて、男とは思えないほど真っ白な肌が浮き上がって見える。
肌だけでなく髪までが白で、腰まで届きそうなほど長く艶やかに波打っている。
端正な顔立ちは中世的な魅力があり、切れ長の瞳は夜よりも深い色だ。
歳は恵都よりも少し上に見える。
まつ毛まで髪と同じ白だと気づいた恵都は、千鬼が日本人ではないのかもしれないとちらっと思った。