天翔ける君



今まで感情の感じられなかった千鬼の薄い唇が意地悪そうに歪んだ。
色っぽいだとか妖艶だとかいう表現がよく似合う。

「そんなかすり傷のような切り傷でか?お前は阿呆か。本当に死ぬつもりなどなかったんだろう?」

恵都は押し黙った。
勝手に流れた涙が布団を濡らす。

死にたかった。
それは本当だ。

――だって、それ以外にどうしようもなかった。


「本当に死にたいのか」

もう一度問うてくる千鬼に、恵都は小さく頷いた。

「死にたい、もう嫌だ。……でも、自分じゃ死ねないの」

手当てする時に、いくつも残った手首の傷を見られただろう。
恥ずかしくなって恵都は顔を伏せた。

しかし恵都は顎に手を添えられて、半ば強引に顔を上げさせられた。


黒かったはずの千鬼の瞳が赤に染まっている。
まるで夜行性の動物のように光り、瞳孔は猫のように縦に長い。

ゾッとした。
まるで肉食動物に狙いを定められたような気分だ。
息が勝手に止まって、金縛りにでもあったように体が動かない。

「オレが食ってやろうか」

そう言って、尖った犬歯を口からのぞかせた。


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