恋するキオク
通り抜けて行く風は心地よさを誘うのに、二人の間に残される空気はとてつもなく重い。
考えてみれば野崎のことがなかったら、オレと省吾がこうして向かい合って話すことなんてほとんどなかっただろう。
皮肉にもオレと省吾の関係は、関わる機会が増えて近くなるほどに、溝がどんどん深まるようだった。
「お前は何もわかってないよ圭吾。オレにとっては、今さらお前がどうしたいかも、陽奈が何を望むかさえも関係ないんだ」
「…どういうことだよ」
「オレはこれ以上、お前に満足させるような出来事は与えたくないんだよ」
「待てよ…、オレが一体何に満足したっていうんだ。お前とは違う、オレはいつだって一人で…」
省吾はゆっくりと首を振った。
「いや…、結局祖父ちゃんもお前の味方だった。オレのために、お前をこの場所から遠ざけてくれたと思ってたのに、本当に肩を治してるなんてさ。
みんながオレを構うのは、オレを大事に思ってるからじゃない。オレがお前に手を出すのを、止めるためだったってことだよ」
「省吾…」
省吾の表情は、いつもよりわすかに暗く沈み、それでもすぐに鋭くオレを見返す。
「とにかく今は会わせられない。お前を近づけない方がいいってことは、陽奈の両親にも話してあるし…」
オレを追い出すように胸を押し、省吾は話を続けながら少しずつ病室から離れようとした。
「圭吾、お前にはお前のことだけを考えてくれる奴らがいるだろ。誰かの存在に気を使って、オレをチヤホヤする親よりも。本当にお前のことを思ってくれる人間がいるだろ」
「っ……」
そう言われて、頭に浮かべることができる人物がいることを、オレは最近になって気づくようになった。
沢さんも、バンドのメンバーも。
もちろん以前までの野崎も。
オレをオレという存在だけで見てくれて、心からのつながりも持ってくれていた。