恋するキオク
本当は一人じゃなかったのかもしれない、そう気づけるようになって。
でもそれも全部、きっと野崎の存在があったからだ。
野崎がいなかったら、たぶんオレはいつまでも…
「認めてやるよ。圭吾には才能がある。勉強でも、音楽でも、オレはたぶんお前にはかなわない。
だから……、陽奈だけはオレから奪わないでくれよ」
「…省吾、お前……」
真っ直ぐに、ただ真剣に
オレを見続け頭を下げた省吾の姿を、待合室にあった大きなガラス扉は夕暮れの陽射しに強く映し出していた。
そしてその時、オレの心臓はさっきよりもなぜか大きく波打っていた。
ーーー省吾sideーーー
いつからオレにとっての第三者が、圭吾ではなく陽奈になったんだろう。
オレと陽奈の間に割り込んで来た圭吾を、最初はずっと邪魔者なんだと思ってた。
邪魔だったのは幼い頃から変わらないけど、それでも陽奈に関することには特に気持ちが高まって。
でもいつの間にか、オレの中での中心は、陽奈じゃなく圭吾とのことになってた。
圭吾と、嫌でも繋がっていた関係。圭吾には譲れなかったたくさんの事象。
そこに、陽奈のことが加わったんだ。
「圭吾が帰ってくるの?」
「そうなのよ、お父さんに電話があったみたいでね。あっちで手術してたそうよ〜。省吾だって怪我のことは引きずってるのに、圭吾だけ先に治しちゃうなんて…ねぇ」
「……」
少しずつ気づいてたことだ。
たぶん祖父ちゃんにとって、圭吾の父親の存在は、オレの父親以上なんだろう。
だから圭吾のことになると、家族みんなが気を使う。つまりはオレに気を使うんだ、オレが圭吾を傷つけないように。
オレだって別に、圭吾を悪く思いたいわけじゃない。