恋するキオク



省吾が先に選んでいいのよ。

省吾はすごいから。

省吾の好きにしていいから。




昔はそれで満足だった。

でも、ある時思った。

みんなはオレを見ているようで、本当は圭吾のことを気にしてる。

オレに構うことで、圭吾という存在を守ってる。



本当のオレを見てほしかった。

親のために頑張って、周りから良く見えるように努力してるオレじゃなくて…




「兄ちゃん、ピアノ借りていい?」


「いいけど…、母さんたちに見つかるといろいろ言われるぞ」


「大丈夫、ちょっとだけだから。いいなぁ兄ちゃんは。父さんや母さんにいろんなものを買ってもらえて」




たしかに圭吾は、いつもオレをうらやましく思ってた。

小さい頃は、親に構ってもらいたい気持ちが何よりも大きい。

でもそれは、物なんかを与えられることじゃ埋まらないくらい本当は大きいんだ。




「いい?省吾。圭吾のお父さんとお母さんはここにいないの。だから優しくしてあげなきゃだめよ」


「どういうこと?父さんと母さんがそうじゃないの?」


「違うの。圭吾は一人なのよ」



だから何?

圭吾がオレにとって弟なのは変わりないだろ?

今までだって仲良く遊んできた。

それで良かったはずなんだ。



それなのに、親が必要以上に気を使いすぎた。



本当の兄弟じゃないけど、これを買ってあげるから仲良くしてほしい。

誉めてあげるから、圭吾を弟として大事にしてほしい。

そんなこと、別に関係なかったのに。




親に気を使われるのは疲れる。

何かに気をとられてるからか、暖かみがなくて逆に違和感を感じる。



オレは思った。

圭吾がいるから、父さんと母さんはオレにこうなったんだ。





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