恋するキオク



賑やかな街並の中にアクトHOUSEのネオンを確認すると、そこにはたくさんの人だかりが見えた。



「そういえば会場の予定、詰まってるって言ってたな」


「圭吾…」



適当なところに自転車を止めて、オレは野崎の手を引いて入り口に近づいた。

会場を借りてた時間は、午後7時までの30分。

当然だけど、時間は過ぎてる。




「ぅわ!圭吾のやつ今頃来やがった」


「まじ冗談だろ、何やってたんだよ圭吾!いま中で善矢たちが店員に頼んでるけど…」




他のメンバーの話を聞けば、次のイベントのための開場がもう始まってて

中はざわついてるし、客もウロウロしてるから落ち着かないけど

それでも幕が上がるギリギリまで待ってもらいたいんだって

一曲だけでもいいから、やらせてほしいんだって


オレの代わりに、善矢たちが…




「絶対無理だって言われたんだけど、善矢も茜も諦め悪くてさ」


「うん、ありがとう。オレも行ってくるから、こいつのこと頼んでいい?」



オレは野崎をメンバーに預けて、人混みをかき分けながら中に入った。





ライトを落とした室内は、たしかに人もたくさんいたけど

とくに音楽が流れてるわけでもなかったから、もめてる場所もすぐに分かる。



「善矢」


「お、おぉ!来た!すみません、今来たんで、なんとかなりますよね!」


「そう言われましても…」


「早く!圭吾も頭下げろ!」


「え、あぁ…。善矢、ありがとな」


「ばか!オレにじゃねぇ!今はそんなことどうでもいいんだよ!」



何度も頭を下げて、無理だという店員の機嫌を取りながらオレに突っ込んでくる。

お前はバカかって
ふざけてんのかって

半分必死で、半分苦笑いで…




わかってたけどさ、オレすごい嬉しかったから。

幸せだなって、心から感じてたんだよ。



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