恋するキオク
思わず目を見開く。
「え、圭吾くんなんですか?」
そう言って、私はまた音の聞こえてくる天井を眺めた。
だって圭吾の弾くピアノのイメージは、もっとスラスラと……
「曲作ってる時はいつもあんな感じなんだよ。弾いたり書いたりを繰り返しながら、自分の世界を少しずつ表現していくんだ」
「作る……?あの、もしかして前に弾いてた曲とかも圭吾くんが?」
「そうだよ。圭吾くんはいつも自分の作った曲しか弾かない。有名な曲や他の人が作ったような曲は弾かないからね」
私が目の前で固まっていると、沢さんは続けた。
「……どうしてだかわかる?」
どうしてって……
何か理由があるの?
今度は私が沢さんの顔を覗き込むように、体を前へと乗り出した。
圭吾のことは、なんとなくいろいろと気になる。
どうして、他人の曲は弾かないの?
「……いや、でもこれ以上話しちゃうとオレにおしゃべりな印象がついちゃうからな。やっぱり今の聞かなかったことにして、ネ!」
い……今さら???
手渡された楽譜の袋を持ちながら私がモゴモゴしていると、沢さんは苦笑いしながら手の平を顔の前に立てた。
「悪い悪い!でも今日は特別、普段はなじみの人にしか上がらせないんだけど。二階、覗いて来てもいいから」
「えっ……二階?」
圭吾が、ピアノを弾いてる部屋。
「いいんですか?」
「あ、いや…またオレ勝手なこと言っちゃったけど。見つかると怒るかもしれないから、そっと行って。静か〜に」
怒るの!?
じゃあ行かない方が……
でも私の気持ちは、すでに二階への階段を上り始めていた。
やっぱり、見てみたかったから。
圭吾がピアノを弾いてるとこ。