恋するキオク
絨毯を敷き詰めたような階段。
一段上がるたびに、足が震えて鼓動まで大きくなる。
頭の中では、勝手に空想した圭吾のピアノを弾く姿が何度も浮かんで。
金色のノブに手をかけた時には、緊張で呼吸さえも忘れてしまいそうだった。
圭吾くん…
少しずつ開く扉の隙間から、茶色い髪とピアスの横顔が見えてくる。
何かを目の前にある紙に書きこんで、また下を向いて考えて。
曲まで作れるなんてすごいよ。
ねぇ、今はどんな曲を書いてるの?
どんな想いで、弾いてるの……?
「はぁ〜っ……」
溜め息?
いい音が浮かばないのかな。
「なんで来んの」
え! 私!?
ドキッとして扉から顔を離すと、光のもれてくる部屋からはこっちをじっと見てる圭吾の視線が突き刺さってきた。
見つかりました……
「こ…んにちわ」
そのままゆっくりと扉を開けて、私は深々と頭を下げた。
圭吾はもう一度溜め息をついて、ピアノの上にあった書きかけの楽譜を閉じる。
「やめちゃうの?」
「気が散ってできるわけないだろ」
「うっ……」
怒らせたかな。
私が黙って下を向くと、圭吾はスッと立ち上がって扉の前までやって来た。
ついに殴られるのかとビクビクしていると、上から見下ろすように静かに圭吾の言葉がおりてくる。
「……入れば?」