恋するキオク



遠く近くない位置で、オレと省吾はしばらく向き合っていた。

そしてオレが一歩家に近づくと、それを遮るかのように省吾も一歩前に出る。



「雨が降ると痛む?左肩」


「…別に」



うっすらと笑う省吾を横目に、オレは無意識に触れていた左肩から右手を外した。

前髪からしたる雫が、時々視界の邪魔をする。



「オレもさ、圭吾のピアノ聞くと指が痛くなるよ。小指から順番に、薬指、中指ってしびれていってさ。なんか、またお前のこと嫌いになる」


「オレもお前なんか嫌いだよ」



雨が強くなったせいか、打ち付ける水滴のせいで頭が少しボーッとする。

オレは軽く首を振って、髪の水気を飛ばした。








「……なさぃ、やめなさい省吾!」


「いやだ!こんなの、こんなのいらないっ!」



省吾が次々とピアノに向かって石を投げ付ける。

あれはたしか、オレたちがまだ小学校低学年の頃のことだ。




オレたちの家には毎週一回、ピアノを教えに若い先生が通ってくれていた。

優しくて、キレイで。

別にオレたちは子供だったし、その先生がどうとかそういうことじゃなかったんだけど。

なんとなく、オレたちはその先生に懐いていた。



「う〜ん、じゃあ省吾くんもう一回やってみようか。ちょっとここ難しいかなぁ」



それで、先生に良い所を見せようと思ったのかな。

何度やっても省吾が弾けなかったその曲を、オレはちょっと得意になって横から弾いてやったんだ。



「すっご〜い、圭吾くん!」



先生はピアノが省吾のものだって事を知っていたし、オレはこうやって先生が教えに来てくれる時にしか触らせてもらえないってことも分かってたから

必要以上に驚いて、
誉めてくれて…



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