恋するキオク


慌てて牧野さんの背中を追って、作り物をやってる教室の扉から恐る恐る中を覗いた。


まずいなぁ…


なにやら牧野さんが圭吾に話をすると、周りにいた女の子たちからも声が上がって。



圭吾の険しい顔。

額に眉を寄せて、軽く口元に手をやりながら目を閉じて。



ごめんね。

だけどちょっとだけその表情が、可愛らしくて笑っちゃう。

また、困らせることしちゃったな。



たぶん圭吾は、ここから覗いてる私に向かって溜め息をつくんだろう。

そしていつものように呆れた言葉を……





でも、圭吾は全然こっちを見ようとはしなかった。

なんで勝手なこと言ったんだとか、困るだろとか…、いつもなら私に何か言うでしょ?



「野崎さん、ほんと助かった。米倉くんやってくれるって」


「ふーん、そうなんだ……」



なんでだろう。

私が勝手に圭吾のことを教えたんだってこと、気づいてないのかな。




それから圭吾は、何事もなかったようにまた作り物を進めてた。

女の子たちに何か質問をされると、うんとか、ううんとか、短い言葉で返して。



私はその様子がうらやましくて、なんとなく劇の練習の合間に近づいてみたりした。


でも……



「あの。圭吾、ごめんね。ついピアノのこと言っちゃって」


「…うん」



圭吾は私の方を見てくれなくて。



「困らない?」


「別に」



口調もなんだか素っ気なくて。



みんなと、同じになってるの。

私だけの特別は無くなってるの。



「米倉くんてさぁ、もっと乱暴な人だと思ってた〜。ケンカとかしないのぉ?」


「ケンカ?」


「うん、殴るとかさ」


「しないよ。指傷めるし」


「え〜っ、もしかしてピアノ弾くから?カッコイイ〜」




ううん、みんなと同じっていうか

みんなより、私の方が遠くない?




「ねぇ、圭吾……」


「野崎さーん。劇の練習始めるよー」


「え、あ…うん……」




なんか、遠い……



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