恋するキオク
「私の心の中にあるのは、いつもシュウのことだけ。…シュウだけを想って、ずっと生きてきたんだから」
「わかってるよ、ユリア。
聞いただろ?カイ。お前の独り善がりな勘違いで、ユリアまで巻き込むことはやめてくれ」
「ユリア…」
この物語の中には、カイとユリアの二人が、お互いの想いを言葉で告げる場面は最後までない。
定められた運命を、無情にも受け入れなければならなかった立場として、それぞれの生涯を終えていくんだ。
キスシーンや抱き合う場面、告白までもないこの劇は、思春期の私たちにとっては一見演じやすいものなのかもしれない。
観ている人の前で、そんな恥ずかしい行為もとらなくて済むし。
「あ〜っ、竹田くん。いまのとこの表情、もうちょっと伏せ目にしてよ」
「ええっ!これでも結構気持ち入れてやってるぞ?牧野厳しいんじゃねぇ?」
「監督に文句言わない!」
でも、なぜたくさんの有名な俳優たちが、こぞってこれを演じたがるかと言えば
そんな言葉や身振りの派手さの代わりに、表情や声、些細な仕草だけで、この物語に込められた深い感情を出し切るという難題があるからだ。
「う〜ん、野崎さんの雰囲気はなかなかいいんだけどなぁ」
「けっ、どうせオレは役に合ってませんよっ」
っていうのは、牧野さんから聞かされた話なんだけどね。
私はあまりよく知らないし。
「牧野さん…、ちょっと休憩してきていい?」
「また!?まぁ野崎さんはセリフも覚えてるし構わないけど。でもすぐ戻ってよ!」
「うん…、ありがとう」
私は劇の練習場所である教室を出て、廊下の窓から吹き込んでくる湿気を含んだ風を浴びた。