恋するキオク
〜プログラムの一番最初は、二年C組による演劇『恋の記憶』です。
時は遥か昔、主人公であるユリアは皇室の…〜
ステージ裏に控えている数人の役者と、幕内で舞台の小物を用意している作り物担当者たち。
足首まである長い巻きスカートを身に付けて、私はすぐ前にいる圭吾の背中を見つめてた。
いくつものライトが照らす中、一晩で覚えたらしいセリフを小さく吐き出しながら呼吸を整えて。
みんなが準備に走り回る様子を、じっと舞台の袖から眺めてる。
真剣な表情。
こんな風になるなんてね。
なんだかちょっと不思議だよ。
「それじゃあそろそろ幕開くから。みんな頑張ってね!」
牧野さんの声をなんとなく耳に入れて、私はドキドキする心臓を抑えながらそっと圭吾の小指に触れた。
一瞬ビクッと驚いて、それから圭吾は首を傾けるように私を見下ろしてくる。
「何、緊張してるのか」
「違うよ〜。圭吾が大丈夫かなって思っただけ」
私がそう言うと、圭吾はフッと笑ってまた視線を舞台に戻した。
幕が開けば、きっと一番前の席には省吾が座っているんだろう。
どんな想いで私たちを見るのか。
私たちは、どんな想いで省吾の前に立てばいいのか。
「野崎は二幕のタイトル知ってる?」
「え?ううん。話はちょっとだけ牧野さんに聞いたけど」
「恋の記憶は一幕のタイトル。二幕のタイトルは愛の復讐っていうんだよ。
オレ、本当はこの話あまり好きじゃないんだ。復讐に走るユリアの愛が、それこそ真実の愛のように描かれてるけど。普通好きな相手にそんな風にはなってもらいたくないだろ。
だから、そうさせてしまったカイの弱さが気に入らなくてさ。
こんな愛し方があるっていうなら別にそれでもいいけど、オレはそういう結末は望まないから」
私が触れていた小指が不意に動くと、それから圭吾の手の平はくるっと向きを変えた。
握り返される私の手が微かに震えると、それを強く止めるように、圭吾の手にはまたぐっと力がこもる。