恋するキオク




〜プログラムの一番最初は、二年C組による演劇『恋の記憶』です。
時は遥か昔、主人公であるユリアは皇室の…〜




ステージ裏に控えている数人の役者と、幕内で舞台の小物を用意している作り物担当者たち。

足首まである長い巻きスカートを身に付けて、私はすぐ前にいる圭吾の背中を見つめてた。



いくつものライトが照らす中、一晩で覚えたらしいセリフを小さく吐き出しながら呼吸を整えて。

みんなが準備に走り回る様子を、じっと舞台の袖から眺めてる。



真剣な表情。

こんな風になるなんてね。

なんだかちょっと不思議だよ。




「それじゃあそろそろ幕開くから。みんな頑張ってね!」



牧野さんの声をなんとなく耳に入れて、私はドキドキする心臓を抑えながらそっと圭吾の小指に触れた。

一瞬ビクッと驚いて、それから圭吾は首を傾けるように私を見下ろしてくる。



「何、緊張してるのか」


「違うよ〜。圭吾が大丈夫かなって思っただけ」



私がそう言うと、圭吾はフッと笑ってまた視線を舞台に戻した。



幕が開けば、きっと一番前の席には省吾が座っているんだろう。

どんな想いで私たちを見るのか。

私たちは、どんな想いで省吾の前に立てばいいのか。



「野崎は二幕のタイトル知ってる?」


「え?ううん。話はちょっとだけ牧野さんに聞いたけど」


「恋の記憶は一幕のタイトル。二幕のタイトルは愛の復讐っていうんだよ。

オレ、本当はこの話あまり好きじゃないんだ。復讐に走るユリアの愛が、それこそ真実の愛のように描かれてるけど。普通好きな相手にそんな風にはなってもらいたくないだろ。
だから、そうさせてしまったカイの弱さが気に入らなくてさ。

こんな愛し方があるっていうなら別にそれでもいいけど、オレはそういう結末は望まないから」



私が触れていた小指が不意に動くと、それから圭吾の手の平はくるっと向きを変えた。

握り返される私の手が微かに震えると、それを強く止めるように、圭吾の手にはまたぐっと力がこもる。



< 96 / 276 >

この作品をシェア

pagetop