2人だけの秘密。
「…?」
その言葉に、事務室に戻ろうとする足をピタリと止める。
そしてまたゆっくりとそこを振り向くと、売り場から柳瀬店長と夏木さんの声が聞こえてきた。
「…あ?」
「だって、そうじゃないですか。あの子は仕事が全然出来ないのに店長はたいして怒りもしないで、いっつもヒイキしてばかりで…。
あたしらが何かすると怒鳴るんですか?」
夏木さんがそう言うと、その瞬間修史さんの深いため息が聞こえてくる。
そして、そうかと思えば…
「…あのなぁ、仕事のミスと嫌がらせじゃだいぶ違いすぎるだろ」
呆れたようにそう言って、言葉を続けた。
「仕事のミスは、むやみに叱るとその後仕事にもっと悪影響が出たりするんだよ。
前の店長が言ってたけど、鏡子はたぶんソレだから必要以上には叱らないようにしてんの。
っつか、俺は君らの方が余計に仕事のことで怒った記憶、全然ないけど」
「…、」
「…とにかく、これ以上鏡子のこと、絶対傷つけんな。
アイツはただでさえ最近深く傷ついたばっかなんだからさ。
頼むから、これ以上傷を広げないで」
「……」
あたしは修史さんのその言葉を聞くと、今度こそその場を後にして事務室に戻った。
…修史さん、ありがとう。
ごめんなさい。
そして心の中でそう言って、事務室の中に入った…。