2人だけの秘密。
しばらくして家を出る時間になり、俺はいつも通りに玄関に立った。
そしてその姿を、鏡子が見送ってくれている。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
俺の言葉に鏡子はそう言うと、いつも通りの笑顔で手を振った。
その笑顔に安心して、俺はマンションを出ようとする。
でも…
「…っ…修史さん!」
「…?」
何故かその瞬間、鏡子が俺の腕を掴んでそれを引き留めた。
「?…どした?」
「…、」
俺が頭上に?を浮かべて首を傾げると、鏡子は何も言わずに顔をうつむかせる。
…その様子に、また不安を覚えてしまう。
考えたくない心配が、頭の中を過る。
「鏡子?」
……鏡子が何かを隠してるなんて、本当はもう既にわかっていた。
わかっていたのに、何も言わなかった。
まさかこの日、俺達の身に“あんな事”が起こるなんて予想もしていなかったから。
俺はそんな鏡子に近づくと、優しく抱きしめてキスをした。
「…今日、また逢おうよ」
「!」
「俺、明日休みだからさ」
俺がそう言うと、鏡子は確かにその言葉に頷いた。
今思えば、鏡子が俺を引き留めたのが「本当は離れたくなかったから」なんて…そう考えるのはムシが良すぎるかな…。
俺が玄関を出てドアを閉めたその直後、鏡子が独りその場で泣き崩れていたことを、俺は知る由もない。