2人だけの秘密。
は…引っ越した?
何それ…俺はそんなこと、鏡子の口から一言も聞いてないけど。
そう思って、俺はすぐにその人を引き留めて問いかける。
「あの、何処に引っ越すとか、場所は言ってませんでした?」
そう聞いたら、その人は首を傾げて言った。
「え、さぁ…そこまでは…。なんせ突然だったから。実家に帰らなきゃいけない用事でも出来たのかしらね。わからないけど」
「…」
「ま、まぁ、連絡してみたら繋がるんじゃない?きっとまたすぐに会えるわ」
そしてそう言うと、今度こそその場を後にした。
…俺だって連絡くらいしたよ。でも全然つながらないし、それにたぶん鏡子は番号を変えてしまった。
…なんでだ?なんで急にいなくなった?俺、知らないうちに鏡子に何かしたかな…。
でも、今朝「今日会おうよ」って言ったら鏡子は確かに頷いてた。
なんで…?
なんで…、
考えたって答えなんか見つかるはずがないのに、鏡子がいた部屋のドアに寄り掛かって独りそう考える。
認めたくないけど、鏡子は黙って俺の傍から離れて行った。
だけどよくよく考えてみたら、最近の鏡子はどこか様子が変だった。
元気がなくて、急に仕事を辞めて、それでも二人で逢うとちゃんと笑ってくれてはいたけど…。
……あ、でも、そういえば今朝鏡子は…
“…っ…修史さん!”
俺が仕事に行こうとしたら、そう言って引き留めていたっけ。
あの時、もし鏡子がいなくなることをわかっていれば…俺はなんとかしてでも引き留めていたかな。
だけど……
そう思って、携帯をポケットから取り出して鏡子に電話をかけてみるけど、結果はやっぱり同じで。
今更気付いたって、もう遅い。